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2016年に聴いたレコード10枚

今年は海外で買ったり、久しぶりにヤフオクを覗いたりしたこともあって、レコードの買い方をいろいろと考えさせられるきっかけになった1年でした。
どんなことかというと、ちょっと興味が出た分野をまとめてインターネットで買ってみたら、実は全然聴かなかった、ずっと前から欲しかったものを取り寄せてみたら、感動がおもいのほか薄かった、みたいなものです。
同じようなことが、最近発売された新装レコスケくんでもネタにされていましたが、レコードはそのものを買い求めることに始まりや終わりがあるわけではなくて、ものを実店舗で見つけて逡巡するも、お店の方に背中を押されて買うとか、手に入れたものをほかの人と聴いて共有するとか、そうすることで楽しみが何倍にも増すんじゃないかと、1周して出発点に戻ってきた感じがします。
そして、これは物理的な要素なんですが、手狭になってきたので現在進行系で多数売り飛ばしています。ただ、手放したものがあとから愛おしくなることもあるので、レコード裁判は計画的に。

1.David Bowie「David Bowie」リイシュー(1967年・英)

新年早々にボウイの1stのリイシューレコードを注文。新年早々から妙にはまり、何度も聴いていました。その矢先(しげる)……。
ちょっと中古レコード界隈の話をしますと、数年前からボウイのレコードが高騰しはじめて、あんなに安く買えたロジャーのUK盤がいまや3000円超…みたいなレベルになっているのですが、今年は訃報もあって拍車がかかってるな、と感じています。
中古業界のみならず、新品リイシューの方もドドスコ出てます。把握してないからよくわからないですが、リアリティツアーとか、昔の録音を収めたボックスとか、アナログで出まくってます。果てはレガシーと銘打ったベスト盤!
そんなわけで、Space Oddityからスタートするボウイの楽曲が、新手ビジネスの渦に引き込まれていくようでピュアな気持ちで臨めなかったのですが、その点このアルバムは安心して聴けますね。後年とは無縁に思える軽快サウンドですが、CDのボーナス・トラック聴くと、全キャリアに連綿と続いていく彼の気質がみえてくるようです。

2.Sergio Mendes「Quiet night」米盤(1968年・ブラジル)

今年は積極的に海外サイトからレコードを購入していましたが(そして早くも飽きつつある)、これは外に目を向けてなかったらなかなか買えなさそうな一枚です。
セルジオ・メンデスのカタログにおいて未CD化(ブラジルでは1度出たとか何とか?)として希少性のあるこの米盤が、さらにプロモ盤モノラルときてます!レーベルが白いだけで浮足立っちゃう昨今のコレクター。モノラルであることにどれくらい価値があるのかはわかりませんが、内容としては同時期のメロディアス志向とは一線を画し、ジャズのような即興を展開。演奏者の唸り声もバッチリ入るような録音で、こんな作品もあるんですね、と感心し、この機を逃さなくてよかったと安堵した一枚。なんといっても、セラーが数枚しか売ったことない人だったんでかなりのチャレンジでした。


3.The Kinks「Drivin'/Mindless child of motherfood」ドイツ盤EP(1969年・英)

キンクスのモノラル/ステレオの過渡期は恐らく「アーサー……」なんですが、このアルバムからのシングルを中心に買ってみると、ヴィクトリア(UK盤)だけがステレオでした。これはヴィクトリアのシングル全てがステレオなのか、それともモノラルも出ていたけど、自分が手に入れたものがステレオだっただけなのか。
で、アルバム「アーサー……」はモノラルの数が少ないのか大変貴重な盤として扱われているのですが、このシングル「Drivin'」で初めて収録曲をモノラルで聴き、音の太さにどどんと感動しました。
「アーサー……」の頃になるとキンクスの音はだいぶこなれてきて、ステレオミックスが様になっていてかっこいいんですが、これがモノラルになると60年代中期のキンクスサウンドが蘇ったかのような、You really got meの太く猪突猛進サウンドで再び鳴らしてくれます。
シングル「Drivin'」は全然売れず、UK盤は高値がついているんですが、アルバムの中で一番いい曲だなと思ってます。「シャングリラ」はじめ、どの収録曲も構成が凝っていていい曲ばかりなんですが、張り切りすぎにも映って聴きながらいろいろとその背景を考えちゃうんですね。ところが、「Drivin'」だけが「Village Green…」のような小曲の品の良さを色濃く残していて、しかもサイケ。
デイヴ作のB面も変わり種な佳作!


4.Pink Floyd「サイケデリックの新鋭(The piper at the gates of down)」日本盤(1967年・英)
 
なぜわざわざ大昔の邦題であるこのタイトルで記したかというと、実は古い国内盤を買ったんです。しかし、ぼくはこのタイトルは初回盤だけかと思っていたんですが、後発でも続いていたんですね。このレコードは、「狂気」が出る前までがカタログ化された東芝音工盤です。エミリーも入ってますよ。
これが何気に音がよくて、買ってから随分聴きました。マイベストレコ候補の一枚が、自分の中で再びブームとなりました。

5.etron fou leloublan「Batelages」フランス盤(1976年・仏)

これを最初に知ったのは中学か高校くらいのときで、なぜそのような早い段階からこのアルバムを知っていたかというと、プログレを独自視点からまとめますよ風なナルシスティックな安いガイド本に掲載されていたからで、特に本作はジャケットのインパクトが強く何度も解説を読み返していたんですが、そこにはCDは廃盤だよとも書いてあり、それじゃこれは一生聴くことはないのかも……でも聴いてみたいなんて思っていました。なにせこの頃はフランスの音楽がどんなのかなんて想像もついていなかったですから。いまもよくわかりませんけど。
しかし、時がすぎゆくままにチンタラしていたら、ぼくではなくて世の中が成熟し、インターネットが開通するなどしたおかげでこうして本作を手元に置くことができたのですが、果たして2回聴いたかどうかすら忘れてしまった。
子どもが欲しいと言っていたおもちゃを買い与えたのに思いのほか興味を示さず、あんなに欲しいと言っていたから買ったのに……とワナワナ震える親の気持ち。そうしたものを汲み取れず、またチンタラと過ごしていくのです。

6.Yes「Yes」イギリス盤(1969年・英)

よく分からないニュージーランド盤でしか持ってませんでしたが、きらびやかなりUKオリジナル盤!マト1/1。海外から買ったら大した金額じゃなかった。亡くなったクリス・スクワイアのベースをゴリゴリ聴けます。ほぼスティーブ・ハウだけ状態の来日講演も行きました。
ザ・バンドとノイ!に並び最もグッとくるバンド名だと思っていますが、最初のアルバムでこれほどバンド名をプッシュしているのだから(ジャケットのタイトル面積参照)、きっと関係者の皆さまがそう思っていたはず。でも、メンバーの何人かは気に入っていなかった、みたいな記述も見かけたような。

7.Cafe Society「Cafe Society」イギリス盤(1975年・英)

今年一番聴きました。
トム・ロビンソンがトム・ロビンソン・バンド以前に活動していたグループとしてほんの少し知られているんですが、ぼくの場合は本作がレイ・デイヴィスのレーベル「コンク・レーベル」から発売されたところから辿ってきました。コンク・レーベルから出たカタログは少数ですが、クレアハミルの作品も極上!
レイ・デイヴィスは、その後安易にパンクの道へ進んだトム・ロビンソンを嫌悪して「Prince of the punks」という曲を書いていますが、トム・ロビンソン・バンドから逆に辿って聴いてみると、そうも言いたくなるほど全く異なる音楽性ですね。
当時のレイ・デイヴィスの趣味を反映してか、「マスウェル・ヒルビリーズ」のようなカントリー/フォークが下敷きになっていますが、より明るく、より切ない雰囲気を出しています。レイ・デイヴィスはそれから30年後、Working man's Cafeというソロ・アルバムを出しますが、どうもこのカフェってところが彼らのようなミュージシャンにとってミソみたい。
トム・ロビンソンの流れで語られるグループではありますが、かといってトム・ロビンソンを中心に据えていたというわけではなさそうで、メンバーそれぞれがリードボーカルをとり、作曲もバラバラという良好なパワーバランスにみえます。ミック・エイヴォリーやジョン・ダルトンら、キンクスのメンバーも演奏で参加しています。

8.Gentle Giant「Three Friends」イギリス盤(1972年・英)

欲しい気持ちはそこそこあるのに、妙に高くて手を出せないバンドの代表格ですね。ほんまかいな。その証左として自分の経験を申し上げますと、ジェントル・ジャイアントで持っているのはこれまで米盤のオクトパス(陰鬱なジャケ違い)のみで、それ以外は購入するチャンスに出会えず、他作品をyoutubeでほほーと聴いていただけでした。CDでも少し買ってましたが。
で、ようやく最近になってyoutubeだけでしか知らなかった「Three Friends」UK盤(スペースシップラベル)を手に入れました。トータルアルバムとは聞いていましたが、ジャケを開くと、コンセプト・アルバムとして制作するに至った経緯が書いてありますよ。A面途中で音飛びあったんですが、変拍子なので最近まで気づかなかった。

9.Sonny Rollins「Way out west」日本盤(1957年・米)

今までのジャズレコードの買い方というと、例えば、ビル・エヴァンスとマイルス・ディヴィスだけの仕切りを見て買っていく……というような感じだったので、メロスは名盤を知らぬ。という風に超有名ミュージシャンや名盤がマイカタログから抜け落ちていました。
今年の後半からちょっとずつジャズ熱が高まり、こうして今までまともに聴いていなかったソニー・ロリンズなんかもいいな、と思って聴いています。
ジャズというと、60年代のアート的な作品がメジャーな感じがしますが、本作のようなソフトなノリも捨てがたく、やはり軽重だけで好みは定められないと改めて思いました。

10.Lou Reed「Metal Machine Music」ドイツ盤(1975年・米)
 
ジャケットの裏って、たいていは曲名、ミュージシャンの名前、あとは小さくどこのスタジオで録音して…みたいなことが書いてあるんですが、本作の裏を見てみますと、何よりも大きく掲載されているのは使った機材、ずーっと下に見ていって、ようやく出てきた人名は「ミックスしてくれたボブ・ラディックに感謝」の一文。
なんやかやと言われる(もうあんまり言われない?)作品ですが、その轟音たるやスピーカーの全域からフルに発射されたような幅広いレンジでして、ただ単にノイズを出しているのとは全く異なることが1秒以内で体感できます。その点において、ノイズにカテゴライズされる数多のレコードとはまったくの別物。どちらがよりプロフェッショナルか、という話ではなく、音の出方へのこだわり方が、まさにルー・リードなんだろうと思います。メタリカとの共作でもそう感じました。

そのほか、今年手に入れたレコードより。Badfingerはイタリア盤。アメリカ盤とは別物のいい音です。変形ジャケ(見ようによっては型紙を2回折っただけ)のアルバート・マルクール、ザリガニジャケットが最高にゆるいプロフェッサー・ロングヘア、これまで聴いてきたレコードの中でも最上の音だったジョン・コルトレーンのバラードUS盤、R.I.P.なアルバムなど。


  

  

  
 

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2016年に観た映画10本

1.ユーズドカー(1980年・米)

老舗VS金満 中古車屋同士の熱き戦い、に巻き込まれた老舗経営者の爺さんが半ば殺される形で死に、あとを継いだカート・ラッセルが金満業者にビジネスで勝負。お互いに無謀な広告作戦を展開し、最後は敵をやっつけるというシロモノです。
ロバート・ゼメキスmeetsカート・ラッセルの小気味よいコメディ作品は、セリフで笑かせにいくのではなく、絵で笑わせてくれるのがいいですね。また、本作が終始痛快なのは、やられたからやり返す、の応酬ではなく、あくまで経営による、恨みっこなしのタイマン勝負ってところもあるんじゃないでしょうか。人間は過去にこだわるからストレスがたまるんだと思いますが、この世界の人たちは良い生き方をしてるんだなーと感心しました。

2.東京ジョー(1949年・米)

ハンフリー・ボガート主演。戦後間もない東京を舞台にしたハードボイルドぽい作品で、脚色はあるにしろ日本ぽい情緒が肯定的に描かれており、その一方で、昔一緒の釜戸で飯を食っていたはずの日米人同士が、戦争を経て暗黙の主従関係が生まれ、ギスギスするっていうのは万国共通でしょうか。人種関係なくビジネスに専念していたレコード・レーベル、スタックスですら、キング牧師暗殺事件によって良好な関係が断たれたというくらいですから、集団間における闘争がスッキリと終わることはないんですかね。

3.家族ゲーム(1983年・日)

どうも僕という人は映画の中の、観客に暗に気付かせるための仕掛けに全然気付かないことが多く(あのシーンはああいう意味があるのよ。それに気付かないとかあなた無能ね、というあの類)、本作も見終えたあとにちょいと検索して、なるへそ、と、その作品で揶揄していたであろうシーンの解説に関心しきりでした。
というような奇怪なシーンがいくつかあり、だからといって奇をてらうものではなく、真剣に考え込んだであろうセリフひとつひとつが無視できない魅力を持ち、意味ありげでいて本当に意味を持たせないよう気を配っているんじゃないかと思います。
その一方で、いじめや受験問題、尊属殺人といったリアリティを背景にちらつかせるので、映像全てにブラックユーモアが内在しているような錯覚を引き起こします。湾の側に団地があるっていう風景そのものが半分ファンタジーにすら思えて、グレーな現実感に浸りました。

4.回転(1961年・英)

古典的な物語のホラーですが、古いモノクロ映画でありながら3回ほどマジでビビりました。夜に眠れなくなる、って思ったときにまぶたに浮かぶ映像って、こんなだよなあとなりますよ。屋敷の空間に響き渡るサイケデリックなエコー、逃げる術がなくなり生存率がみるみる落ちていくような妄想的、幻惑的な閉所サウンドも至高です。子どもらが発狂したように叫んだかと思えば、突然口汚く罵る多重人格性など、突発的なホラー現象が強烈。

5.死刑台のメロディ(1971年・伊/仏)

アメリカ史最大の汚点とも言われる、サッコとヴァンゼッティ事件。1920年代でしょうか、この2名がアナーキスト(共産主義者)だったことによっていわれない殺人事件の濡れ衣を着せられ、死刑判決、執行されたというもの。当時、ヨーロッパなどにも飛び火して判決を取り消すよう多くの国で大規模デモが起こりました。それから50年ほど経って、あの裁判は間違いであった、と政府が認めたそうです。
本作はサントラのLPだけ持ってました。エンリオ・モリコーネ作!ジャケットのとおり、実在した2人とよく似せていらっしゃる。※スーマリではありません。
世の中には名作なのに胸糞が悪くなるものがあって、強盗・強姦集団への復讐を果たす「わらの犬」に引き続きこちらもそんな類かと思います。冤罪事件ってのはある程度政治的な思惑があるわけですが、100年前実際に起こったこちらはモロな政府VS反政府の代理闘争で、過激な罵倒の泥仕合によって法廷が混然としていく様子が痛々しい。音量のレッドラインをオーバーするほどの怒鳴り合いです。
それにしてもこの邦題はなんでしょ。ヨーロッパ映画の有名作をかけ合わせただけでしょうか。

6.ヤコペッティの大残酷(1975年・伊)

傑作!ペキンパー並にスローモーション使いますが、本来は感動や戦慄を呼ぶはずのその技法が一種のアイロニーとして機能しており、その点でホドロフスキーのようでありながらまったく芸術性は感じず、なのに素晴らしいと思わせるのはなぜかしら。土地も時間も超越して飛び回る、自由度の高い作品、でありながら、お固い欧州宗教史を軸にした物語。こんな映画を撮りましょう、といってこれだけお金かけてやらせてくれるものなのでしょうか。日本のファミコンソフトの名エンディング「こんなげーむに まじになって どうするの」よりはるか前に、見応えあるナンセンス作品を残していたんですね。

7.きっと、うまくいく(2009年・印)

近年大ヒットしたインド映画ですね。いろいろと泣かせにくるなーという作品で、ぼくは涙腺が弱く、かっけの条件反射のごとく泣きやすいので本作でも10回ほど泣いたんですが、それは置いといて。
日本も含めて経済発展と学歴社会というのは切っても切れぬ関係のようで、学生の自殺が増加しているインドの現状を痛快なほどライトに描いたのは、とても示唆的であるように感じますね。同じテイストを日本人キャストでやられたらイライラしそうですが、ほのかな異国情緒があるってのが奏功しました。というわけで好みでない部分があるにせよ、他人にはオススメしやすいですね。ドリアン助川はU2「ポップ」が好きでいろんな人に買い与えていたそうですが、映画をギフトする機会の多い方はそのカタログにいかがでしょう。部分部分を見れば実によくある設定なのに、出色の出来になっていることも興味深い。

8.スーパーマリオ 魔界帝国の女神(1993年・米)

当時はキワモノとして紹介されてた記憶且つ、デニス・ホッパーも落ちるとこまで落ちた的な扱いされてた気がします(ブルー・ベルベット、悪魔のいけにえⅡ以来3度め)。今はネットで誰でもできるし披露もできる二次創作がはやりですけど、そんな潮流を吹き飛ばすような、柔軟なアイデアを生み出す原動力を感じますね。ゲームのマリオ・ワールドはほんの下敷きで、あとはサイバーパンク風に仕立てたってのは、芸術性の是非は別にして、本当に人間的で創作的な行為だなあと思います。キノコ要素は汚い菌になってますし。でかくもなりません。そんなアイデアが全編に行き渡っており、非常に刺激を受けました。まさかのディスコで流れるLove is the drug!クイーンのTie your mother downも。

9.西部戦線異状なし(1930年・米)

後年数々生まれる戦争映画はあらゆる要素(楽観、組織、権力、狂気、淫乱、絶望、達観など)を盛り込んでいますが、本作は第一次世界大戦後の時点でそうしたポイントをすべて盛り込んでいます。そしてさまざまなシーンで印象的な映像の工夫、経過とともに移りゆく主人公青年兵士の目つき、といったように大味に終わらぬ配慮もあり、そしてあの戦争の、はじめ楽観的だった雰囲気が徐々に変質し、現場とは程遠い自国の人々が意気軒昂としていく描写の細やかさ。映画でここまでやりきったけどすぐ第二次が始まるのです。

10.ライフ(2013年・米)

おなじみLife誌を下敷きにした、ノンフィクションのテーマを土台に展開するフィクション映画でして、Life誌に勤めていた冴えない表紙ネガの管理者が、自分が担当する最終号の表紙ネガを探し出すべく、世界を周り成長するというもの。
序盤から中盤にかけて、主人公は自分がスーパーマンになるかのような空想を何度も続けるのですが、風向きが変わっていよいよ世界へ飛び立つとき、Space Oddityがメインテーマのごとく流れ、それが最後の空想癖になります。その場面だけ、空想と現実の境目にまで近づいたようなリアルさがあるのはとても象徴的で、そしてバックパックが終わったあとの終盤、「空想することは減った」というシャレたセリフにつながるわけです。
たいていの孤独な人々は空想、妄想が肥大化していくんですが、社会で評価されずとも、自尊心を獲得することはできるという意味で希望にあふれた作品だなと思います。

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2016年に読んだ本10冊

今年も何もしないまま年末が訪れ、存続崖っぷちのブログがこのときとばかり頑張りて、這い上がろうと必死にもがきます。
昨年に続き、今年も比較的に本を読んだ一年となりました。その割には印象に残ったものが少なくて選びづらい、というより本当は、ちゃんと読んでないから印象に残っていないのでは、といまさら気づきまして、それというのもドサッと図書館から借りると、積まれた本を読み終える、とりあえず目を通すことが目的となってあまり学べてないんじゃないか、という風に思えています。
しかし、最近本を読み始めたという横尾忠則が、読んだ内容は覚えてないけど、目を通してる間が楽しいからいいや、という境地に至っているそうで、そんな無責任な読書もいいかしら、と思い直しているEVEです。タツロー↑

1.レコード・コレクター紳士録 大鷹 俊一(ミュージックマガジン)1999年


音楽誌「レコード・コレクターズ」で現在も連載されている「レコード・コレクター紳士録」のごく初期(90年前後~)をまとめた本書は、中古レコードが最も熱かった時代の猛者たちが自慢のレコードを手にコレクター道を語っています。
当時のレココレ誌の方向性を反映してか、ロックは案外少なめ。タンゴやジャズ、ハワイアンをどうぞ。紳士自慢の一品が濃いめの白黒写真で紹介されており、ほーと思って海外の通販サイトで検索すると、あっさり見つかってしまうというのは時代の趨勢ですが、今は今でトレンドがあり、変なものが随分高くなるんだなあと感じています。
なぎら健壱さんが、コレクターになっても、隅々まで聴いていたときの気持ちを失いたくないと、いいことを言ってますね。でも、URCがなくなる時にダンボールにたくさん入ってた「横尾忠則 オペラを歌う」をたくさんもらってくりゃよかった、とも下心丸出しで語っていました。

2.西洋音楽史―「クラシック」の黄昏 岡田 暁生(中公新書) 2005年


西洋音楽、つまり我々がいうところのクラシックが主なところで、その歴史を紐解くということは非常に難解なことらしく、というのも、往々にしてクラシックの歴史が、ルネサンス、ロマン派を通じてドイツで花開き……という物語に沿って語られるのに対し、著者はそう簡単に割り切れるものではない、と考えているそうです。そのため、ノンフィクション小説のような心地よさはないものの、目から鱗なポイントがいくつもあるはず。どうしてクラシックといえばドイツと定着するようになったのか?日本でいうところの大相撲と案外似てると思えるはず。
著者のすさまじいところは「客観的な歴史などありえない」という前提に立ち、一行足らずで「芸術」を定義するような荒業を繰り出すなど、自らの思考を何ら隠さずさらけ出すところで、といっても都合よく継ぎ接ぎするでもなく、実直な作りだなと思わせます。
内容において何よりも大事なポイントは、西洋音楽が聞き手を「感動させる」ために工夫を凝らすようになった、これがロックやポップスをも含めた西洋音楽の最重要な分岐点、て感じがします。

3.五輪ボイコット―幻のモスクワ、28年目の証言 松瀬 学(新潮社)2008年


幻のモスクワ五輪、自分が生まれる少し前の話です。
本書は当時の関係者らにインタビューを試みるというもので、山下泰裕ら競技者はもちろん、JOCら中枢の人間にもアタック。モスクワ五輪は政治的な圧力にスポーツ関係者(各競技代表、JOCなど)が屈したところが大きく、このことがJOCを独立させることになるのですが、これも時代と言うべきか、ある男性競技者が記者会見で涙ながらにモスクワ五輪不参加の取り消しを訴えたところ、男が涙を見せるとは何事か、ということで世論はボイコットへ傾く結果となるなど、日本中を巻き込んでの騒動となったそうです。
競技者それぞれにも思惑があり、まだご存命だった古橋廣之進の、一周回って「参加すべきでない」という意見。これは、騒々しい世論の中では集中して競技に臨めないという、これは自身のご経験から語っているのかもしれませんが、こういうコメントを自信を持って話せるのだから、老人をもっと尊敬しないといけない。

4.スピンクの壺 町田 康(講談社)2015年


犬の立場になって、町田ファミリーを見てみよう、という趣向です。
近年、町田康が書く作品は、主人公(つまり著者自身)が堂々巡りをするアホ、という設定が多いんですが、本作もそれを踏襲しています。もう長年このスタイルな気がしますが、延々とブルースのレコードを出し続ける、流行の潮流に毒されないミュージシャンの気風のようなものを感じますね。昔の作品「つるつるの壺」系列のタイトルですし。日常生活の些事をねっとりじっくり考えよう。


5.生ける屍の結末―「黒子のバスケ」脅迫事件の全真相 渡邊 博史(創出版)2014年


「黒子のバスケ事件」というのがちょっと前にあったんですね。黒子のバスケという漫画の著者に対する脅迫を目的とし、漫画のイベントへの爆破予告などが長期間続いた、という一連の犯罪です。本書はその被告による著書で、事件の経緯、犯罪を起こすまでに至った心理の自己分析を仔細漏らさず描いており、特に著者自身が大きなポイントとして示していた家庭環境の異質さを第三者に指摘された点は、永山則夫や加藤智大にも共通してますね。
不安障害などメンタルの病気も自覚していない人が多く、その症状がどこからきてなぜ起こるのかわからないまま過ごすと認知の歪みを起こすのではないかと思います。
で、今年はネットで自殺を配信する若者が出現するなどその実態を見せつけられ(犯罪と自殺は違うもののようですが、著者は自分が犯罪を起こしたことは必然だと考えていません)、他にも予備段階にある人がいるんじゃないかとも。

6.アメリカ本土を爆撃した男―大統領から星条旗を贈られた藤田信雄中尉の数奇なる運命 倉田 耕一(毎日ワンズ)2014年


中学時代に日教組と思われる社会科の先生がおり、授業で「アメリカに爆弾を落とした日本人がいるんです。全然ダメージ食らわせられなかったんですけどね」と、ウフフと笑いながら話していたその逸話をなぜか忘れられずにいましたが、ようやくそれが本当だったと知りました。
タイトル通り、太平洋戦争においてアメリカ本土を爆撃した男がいる!我々はその本に密着しました。それによると、爆撃した男性はすぐに日本に引き返し、生きて終戦。当時の民衆と同じく戦後の貧しい生活を経て仕事を見つけ暮らしていたものの、閣僚レベルの政治家より連絡があり、あなたが爆撃したアメリカの土地の方に招待されている、と知らされます。もしかしたら殺されるかもしれん、という話を受け、覚悟を持って招待された土地へ出向くと、勇気あるサムライみたいな形で紹介され、親睦を深めたそうです。当人も立派な軍人気質の方なんでアメリカ的にはサムライ度が増したのか、交流はその後何十年と続き、アメリカ人の日本へのプチ留学も斡旋するような、良好な関係が続いたようです。
当人は慎ましい生活を続け、残念ながら亡くなってしまったそうですが、本書の内容は意外にも、晩年のなんてことない生活を辿ったページが半分近くあります。その中で、敵地との交流を深め続けた一般男性、という描き方が実にいいですね。やっぱりサムライ度が増した。


7.ポル・ポト〈革命〉史―虐殺と破壊の四年間 山田 寛(講談社選書メチエ 305)2004年


本当にそんなに人が殺されたんですか?と疑いたくなるポル・ポト革命。ポル・ポトが反政府ゲリラを結成したころに現地取材をしていた記者が、調べられるところまで深掘りしたものですが、何分ポル・ポト政権下では写真や映像、果ては文書もほとんど残っていないそうで、あらゆる疑問を呈しつつ、甚大な被害の数字に圧倒されるがままに読み終わります。
で、ちょっと動画なんて検索してみたら、主犯と言われる人間たちが結構のうのうと生きてペラペラ喋ってるんですよね。これは彼らが重要な参考人でもありながら、罪のなすりつけ合いを延々とし、かつ死人に口なし、ってことで死んだポル・ポトに逆らえなかった的な証言を続け、国際裁判がいつまでたっても終わらないためだそうです。

8.キャッチフレーズの戦後史 深川 英雄(岩波新書) 1991年


最近はコピーライトって流行らないですね。ヒット作がないというか。広告自体も話題にならない。もう20年くらいそんな感じじゃないですかね?
戦後早いうちからコピーライターをしていた筆者によれば、戦後に生まれヒットしたキャッチフレーズは、よく言いわれることですが世相を表したものだっつーことで、いまのキャッチフレーズ(本書が出たのは平成になってすぐ)はどうも言葉の形、ノリみたいなものだけが先走っている、という批判を展開していました。して、さらに20年以上経たいまはどうか。個人の趣味や嗜好がますます多様化し、その多くが社会的にも認知されるようになり、世相を捉える、という行為自体がピンとこなくなってるんじゃないかと思います。今年一年の漢字も、流行語大賞も、反応が弱いですもんね。我々は個人が個人を追究しなければならない時代にいるのです。多分。


9.人間の生き方、ものの考え方 福田 恆存(文藝春秋)2015年編集


少し前に、いわゆるサブカル的なブックショップで福田恆存の名前を見かけるようになりまして、いまはまた見かけなくなったんですが、ぼくはいまさら初めて読みました。
批評家であり、戯曲家であり、古典の翻訳家でもあり、つまり大した人物だということなんですが、再版された彼の本の中でも、割りかし読み進めやすいのが本書ですね。ほかも何冊か目を通しましたが、大昔の思想誌に載ったものが多く、これはよく考えて読み進めないと難しいものでして、大学のときの課題で一冊の哲学書を一年読み続けたのを思い出しました。いまはそんな心のゆとりもないですし、一人で勉強するにはいかに根気が必要かと改めて思い知らされます。しかし、本当によいことが書いてあって、文章も整ってますし、小林秀雄ともどもこの時代の凄まじさだけでも感じておきましょう。モアザンフィーリング。

10.ビートルズ来日学 宮永 正隆(DU BOOKS)2016年


これまたレコード・コレクターズで最近長く続いているコーナーですね。ビートルズの、あのただ一回の来日について、延々と研究し成果を報告するというものなんですけども、スチュワーデスやテレビ局の方、ステージ関係者、運転手、ホテルマン、骨董屋、仕立て屋などなど……ビートルズに接した方への取材から、驚くほどいろいろなことが分かってくるんですね。車に乗った順番や、洋服の色やら、どれだけ小さなことも漏らさず調査すると、大きな疑問を解決するヒントになっていきます。
これって、別に他のバンドはもちろん、俳優でやったって、政治家でやったっていいはずなんですよね。「オバマは広島で演説する直前にマイクの首振りを気にしていた」とか。得られる結果だって同じはず。では、なぜビートルズをテーマに延々とこんなことを調べているかというと、そこまでさせる引力を持つのがビートルズしかいないから、ということになるでしょうか。もはや音楽の一バンド、一ジャンルをも遥かに越えた、歴史的なアイコンとも言えるんですかね。凄まじい。


拍手[2回]

2015年に聴いたレコード10枚

年が明けてしまいました!明けましておめでとうございます。
いきなり昨年の話になりますが、例年に比べ多くレコードを買った2015年。その一方でライヴに足を運んだのはポール・マッカートニーとキング・クリムゾンの2つだけで、まあオーディオを一新したことだしそれでいいのさ、とひとり嘯いているところです。
昨年の日本の年間シングルチャートをこないだテレビで見てたんですが、トップ100のほとんどをEXILE、ジャニーズ、AKB、韓流の4派が占めていました。趣味が多様化したと言われる昨今、なぜ一部に人気が集中しているのか不思議なんですが、じゃあラジオはどうかというと同じ曲ばっかりかかっててね。そんなナウな環境に飽きたら昔のレコードを探してみましょう!いまよりも新鮮な発見がいくつもあるはず。

1.Paul McCartney「New」(2013・英)

ポール・マッカートニーの来日公演はこちらの最新作ツアーだったわけですが、本作は近年の中でも好みの作品だなーと思ってまして、来日公演後にあの光景を再び思い出したいという気持ちもあってレコードを探し出し、何度も聴きました。プロデューサーが曲ごとにバラバラだそうなんですが、まとまりのある中にもバラエティに富んでいて、ライヴではもっと新作から演奏してもいいんじゃないか、と思うほどどれも印象に残る曲ばかり。


2.Albert Marcoeur(1979・仏)

今年は初めて新潟県に上陸した記念すべき一年となりまして、とはいえはじめは目的もなく来てしまったので、じゃあってんでまず向かうところはレコード屋なわけですが、その中の1件で買ったのがこちら。「フランスのフランク・ザッパ」と呼ばれているらしいアルバート・マルクールの3枚目のアルバム。まあザッパのようだといえばそうっぽいのですが。見た目も含めて。いわゆる即興演奏ではなく、調子外れのメロディ、厚みがありつつどこかズレている管楽器など、随所に脱ロック志向が伺えまして、その辺がアバンギャルドに類別される所以でしょうか。これより前の2枚は同じデザイナー?ジャケットが秀逸ですのでセカンドのジャケ写をこちらに。



3.Television「The Brow Up」(1982・米)

来月再び来日するんですよね、といってもぼくが観たことあるのはトム・ヴァーレインのソロだけで、テレビジョンの公演を見るのは初めてになります。その準備ってつもりでもなかったんですが、ようやくこのライヴ盤を聴いている次第。音はあんまりですが、それを補うライヴならではのスピード、声、演奏の揺らぎというのものが終始持続する様はテレビジョンらしく、一方でスタジオ盤のライヴ的な意志をも感じ取れる、いい作品だと思います。


4.T・Rex「Electric Warrior」(1971・英)

中学生の頃にピクチャーディスクのCDを買い、その後国内盤レコード、米盤再発、と経てついにUKオリジナル盤。ポスター無しのせい?か妙に安価でラッキー。それまであんまし真面目に聴いてないアルバムでしたが、あまりの音の良さに何度もかけちゃいましたね。このパターンはボウイの「ジギー・スターダスト」でもそうでした。どちらもトニー・ヴィスコンティのプロデュース作品ですが、彼の音はオリジナル盤でこそ真価を発揮するのか?これまで聴いてきたものとは別物、という表現がピッタシでした。こういう瞬間に出会うのもレコードを買う楽しみの一つ。


5.Ton steine Scherben「Warum geht es mir so dreckig?」(1971・独)
  
10年近く前に録音させてもらったCDRを聴くたびになんつー過激な、と思っていました。ドイツのインディーズレーベルから発売された作品で、バンド名の意味は「粘土、石、破片」。本作に収録された挑戦的なシングル「Macht kapurt, was ench kapurt macht」(お前たちを壊すものを破壊しろ)がヒットしています。フォークというにはヘヴィで、ガレージというには後ノリで、パンクというにはやけっぱちすぎる。類型の壁を打破するごときラルフ・メービウス(リオ・ライザー)の暴発ボイスは、ドイツ語のためか他の国では出ておらず、いわゆるクラウト・ロックの範疇にもなく。果たして日本には何枚存在しているのか。レコード再発もありますが、こちらはオリジナル。ポスターに写ったメンバーの目つきもイカしてます。ジャケットはボール紙のような質のもので、両サイドをホッチキスで留めただけという過激なもの。アルバム・タイトルの意味は「俺たちはなぜこうも冴えないのか?」


6.Ned Doheny「Ned Doheny」(1973・米)

ネッド・ドヒニーてなんでか知らんが水着でニヤニヤしてるジャケの人か、ていうある種マイナスな印象でしたが、あのアルバムも日本での人気の通りいい内容ですし、そしてそれより遡ること3年前のファーストもCDで聴いて、こりゃいいなと思ってました。今回は国内盤(東芝EMI)ですが見つけまして、録音がいいのか(レーベルはあのアサイラム)、国内盤でも結構いいな、って感じです。優しいメロディに少し力の入った歌声を添え、バックの演奏がまたしっくりときまして、名盤だなーと思います。


7.Nirvana「The Story of Simon Simopath」(1967・英)
 
初期の名曲「Pentecost Hotel」はシングルで持っていて大好き。アルバムもCDでは持っていたんですが、あんましピンとこなくて放置してました。アナログも高いので入手するとは思っていなかったのですが、ほとんど行くことのない地にて米盤ですが買える値段で発見。ステレオですけど1日置いて買いました。こうしてアナログで改めて聴くといいんですね。サージェント・ペパーズにいち早く反応した作品といいますか、兎にも角にもアルバム冒頭のイントロが最高。SF的な音の中にも、田舎然としたバンジョーでサクッと終わるB面ラストの有り様もイギリスらしくてこれも憎い。ジャケも素敵だし。しかし収録時間短すぎです。


8.サウンドトラック「The Shining」(1980・米)
 
スタンリー・キューブリック映画「シャイニング」の曲といえば、やっぱピンチの時のアレですよね。レコードではB面の冒頭からスタートしますが、嵐の前の静けさを湛えたA面から一転、アラームなサウンドに身構えてしまいます。そして帯見るとバリー・リンドンも出てるのね。全然売れてなさそう。


9.Todd Rundgren「Something Anything?」(1972・米)
  
今年はオーディオを一新。その際に音がいいレコードといえば、ってことでこちらを何度もかけて元々音の鮮度のよいこのアルバムを、さらに引き出す環境に満足していました。あまりにハマってしまい、2枚組を1枚にした国内盤も入手。帯付きならなかなかの値段がする一品で、日本オリジナルジャケットも手伝って海外で人気があるとか。


10.The Rolling Stones「Their Satanic Majesties Request」(1967・英)
 
ストーンズを普段ほとんど聴かない上、このアルバムは15年くらい前に国内盤を1回聴いて売った苦い経験あり、ですがニルヴァーナと一緒にやはり米盤ですが美盤モノラルを物は試し、で入手しました。すると、音が別物といいますか、何とだよ、と言われるとよくわからないんですが、このモノラル、アメリカ盤でしか出なさ気な遠くからこだまする感じ、根っからのサイケサウンド、と思わせました。この音そのものは唯一無二だなと。しかし曲の印象は変わらず……A面のビル・ワイマンの次の曲がいいなと思います。


その他、紹介しきれなかったけどよく聴いたアルバムのジャケだけ載せていきます。本年もよろしくお願いします。

                   



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2015年に読んだ本10冊

今年は短い空き時間が多く、それじゃあ映画は見られない、ってことで本をよく読みました。
不思議なもので、今年から読み始めた水木しげる、野坂昭如の両氏が亡くなるという憂き目にあいました。


1.ぼく、ドラえもんでした。

とどのつまり大山のぶ代さんの自伝でして、特にドラえもん作品での録音現場、イベント、旅行などの話を中心に語っているのですが、読んだあとに大山さんが認知症だという発表があり、この本に書いたことも忘れていくのかと思うと、世の中は因果なものだと感じずにおれず。




2.ニール・ヤング自伝Ⅰ

自伝、といってますが生まれてからのことを順番に記していく、という調子はまったくなく、本人の思いついた順に掲載しているんだそうです。ミュージシャン友だちの死、重病の子どもとの日々、音楽ファイルの高音質化プロジェクト、趣味の鉄道模型コレクション……純粋な気持ちで綴られた言葉は本人にしか書き得ない、これこそ自伝、と呼ぶに相応しい一冊。


3.夜と霧

お子さんの教育にもぜひ!とは軽々しく言えませんが、本書の価値というのは単にあのナチスによる収容所での惨劇を経験し、反戦を訴える、というところにはありません。著者は心理学者であり、常に環境の変化と自身、周囲の人間の変化に目を配り、極限状態にいることとは、当事者にとってどういうことなのか。記録的に描くその冷静さにまた身を震わしてしまう、その迫真さに高い価値があるんじゃないかしら、と思っています。映画も有名ですが、原作のこちらもまた名著でして。


4.スタジオの音が聴こえる

レコードジャケットの裏を見ると録音/ミキシングのスタジオの名前が記されていて、あれ、このスタジオの名前を前も見たな、って思いません?そんな経験があって、一時期買ったレコードのスタジオ名をエクセルで記録してました。すぐ面倒くさくなってやめましたが。それで検索かけると、あれとあれが同じスタジオなんだな、とわかったりしてちょっと面白い。
というわけで、本書はロックやソウルの有名なスタジオの開設経緯、コンソールなどを紹介したもので、こういう本ってありそうでなかったというものですし、自分のレコードに対して足りない認識をしっかり埋めてくれた、そんな本です。


5.自動車の社会的費用

自動車ってのはあれだけ人の命にかかわる事故を起こしながら、なぜ大手を振って走っているのか、歩いてる人に対してあんなクラクション鳴らしてさあ、と幼少の頃より思っていましたが、世界的に著名な経済学者が同じことをテーマにしていて、ぼくの思い違いでなくてホッとした次第。自動車を走らせることで経済が豊かになったように見えるが、それにより失われるもの……人命、ケガ、環境、道路の維持費など、それらを解決するための損失を差っ引くと、果たして本当に我々はその恩恵を受けたことになるか、という著書。大量の自動車が闊歩しだした70年頃のもの。


6.われ生きたり

昭和史に名を残す「金嬉老事件」。その内容については「在日朝鮮人に対する差別が絡んで……あとははてさて」という程度しか知らなかったんですが、金嬉老本人による手記のこちらを読みその過程を知ることとなりました。
戦中~戦後の在日外国人に対する差別に思いを寄せることもまた然りですが、何といっても在日朝鮮人で形成された集落……その一部はヤクザと化し、また別のヤクザと相対する。一触即発の仁義なき世界は昭和ヤクザ映画そのもので、その迫力たるや。あらゆる側面から人間について学ぶことの多い一冊かと思います。早川義夫さんもご推薦。


7.「山月記」はなぜ国民教材となったか

あなたも読んだはず、山月記。なぜならば戦後すぐに「良書」としてその地位を確固たるものにした山月記は、今まで教科書に掲載され続けているからです。
山月記が定着していく経緯は意外と短い間になされるのですが、現代小説に対する扱いがいかに変化し、いまでは当たり前になった作者の気持ちの分析……いわゆる「読解」へ至ったのか、という点に腐心した論文となってまして、これまた現役教師によるものですから、現場の労苦というものを思いながら読むのもまたよろし。本当は作者の気まぐれで、そこまで考えて書いてないんじゃね?という誰しもが思う意見も掲載していて、ではその上で、という展開は清々しいなと思います。


8.ハイ・フィデリティ

大ヒットした映画はすでに見ていますが、原作のノリもなかなかイカしてます。最近の海外小説特有のシニカルなのに軽快な感じ、がモロに出てまして、音楽ネタばかりの脚注も楽しい人には楽しいけども、苦痛でしかない人も相当にいるだろう。それこそがあなたにとってのレコードマニアなのです。スティーヴィー・ワンダーのレコードを求められているのに売ろうとせず客を突き返す、あの店員のような。


9.川釣り

興味ないことなのに読んでいると面白いなあ、でも自分ではやらないなあ、っていう本がこれまでにいくつかありました。水上勉の畑作業、蛭子能収の競艇指南、いましろたかしの渓流釣りマンガ、そして井伏鱒二の川釣りをテーマにしたエッセイもまた同じく。


10.餓鬼道巡行

町田康の作品もそろそろ単行本は読み切ったかしら、という中、2件の外食屋に足を運ぶだけで30回の連載を達成したこちらもまた読み応えあり。本書にもあるように、フツーの店の佇まいに、仏教的な思考システムを見出すという変わったしろもので、それは徹底した観察によるものともいえるし、むしろ観察するという姿勢では書けない、自然な姿勢だからこそ描けた、とも見受けられる、そこにユーモア以外の何を見出したらよいのでしょう。


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