なかなか映画を見られなかった一年に……という体感でしたが、数えてみると60本近く見ていました。それでは世間一般人は平均してどれくらい映画を見ているのか、というと想像はつかないんですが、見る人と見ない人とで振れ幅があるんじゃないかなという気がします。映画や音楽、本の消費数は確実に減ってきているけれども、それぞれの趣味世界はディープになっているわけで、世間と趣味とのギャップはますます広がってきているんだろうと思います。
今年は例年以上に新作を多く見ました。というのも生活時間帯の都合、レイトショーをのんびり見られるんじゃね?ということに今さら気付いて利用している次第です。やっぱ家で見るよりも映画館の方が楽しく、くだらない作品でも目や耳に入る情報自体は心地よく感じられなくもないし、名作に出会う可能性という意味では辛いものがありますが、悪くもないな、という具合いです。いつもは10本出してますが、今年は観賞数が少なかったので5本で。
1.太陽を盗んだ男(1979・日)沢田研二主演、そして今年亡くなった
菅原文太が共演した一大サスペンス。教員の沢田研二が核爆弾をつくり、日本政府をゆするっつー壮大なストーリーです。最近もそういう小説が売れてるっぽくてそれっぽい映画もある気がします、ってその辺のことはよく知らないですが。
理由も目的もなく日本政府を脅し、次々とエスカレートしていく様を楽しんでいる沢田研二が、上映当時は相当ニヒルに感じられたんじゃないかと思います。現在はそうしたスリルをショートカットするように、バトロワやデス・ノートでは(どっちも読んだことないですが)アートやストーリーが介在しない形で「殺し」へ到達する姿が若者の支持を得ています。生活を取り巻く社会の変化は、人間をすっかり変質させます。
2.フィツカラルド(1982・独)今年も
ヴェルナー・ヘルツォーク作品を4本見て満足しましたが、こちらは中でも有名な一本。大型の船が急流を渡り、陸を越えていくという力技?というか私ゃ何に感動しているんだっけ、と不思議な気持ちにさせられるギミック無しの大作です。
ヘルツォーク作品に多く出演している
クラウス・キンスキーは、なりきりスイッチが入ると挙動、表情、言葉、叫び、さらにあらゆる器官を総動員してパワーを放射し、存在感を自分へ一手に集中させる恐るべき役者です。実は本作、
ミック・ジャガーが出演予定だったそうですが、主演予定だった役者が病気となったため脚本が変更され、ミック・ジャガーの役もポシャることになったという経緯があるそうです。ジャガーの出演シーンも残っていて別のDVDで観たのですが、キンスキーの同じシーンと比べるとジャガーをもってしても気の抜けた風船のように見えてしまう、それほどの力をキンスキーは有しています。
3.マッドマックス 怒りのデス・ロード(2015・豪)映画の新作を見る、というのはわずかな好作品を見つけるべく玉石混交のブラックボックスに飛び込むような行為でして、中にはドベと張り紙したくなるような、予告編に騙された作品なんてのもありましたが(予告編の方が優れている作品は実に多い)、そん中から何か一本、となるとベルセバの監督作品かはたまたマッドマックスの新作となりまして、ベルセバは一度紹介したし……ということで、軍配はマッドマックスに上がりました。
こんな導入文を書いていると、世間では大評判、映画史に残る至上の一品、とまで賛辞を受けとるのにてめえは何を渋っとるんや、と関西弁ですごむ人があるかもしれませんが、出し渋った理由の一つに、マッドマックスシリーズの中ではその原点となる最初のマッドマックスの方がずっと好みであることが挙げられます。マッドマックスシリーズは北斗の拳のような「2」の世界観を引き継いでいるので比べるものではないのですが、最初の作品にあった肉感や泥臭さは、丁寧にデジタル処理された新作に見ることはできません。あれだけ暴れて血生臭く見せていても、最近のアクションシーンというのは不思議とどんな作品も均一に見えてしまい、そこが物足らない原因かなと思います。
とはいえ、巧みな演出と脚本が、人の心に潜む原初的な暴力に訴えている点は間違いなく、高度に目に見える暴力が排除されている現代の社会システムにおいて、その鬱憤を晴らすように観客を熱狂させたのはまさに映画世界をリアルに伝達する行為そのもの。その行為を最も高揚させるのは戦闘シーンで流れ続ける重厚なドラム隊とメタル音楽でしょう。そしてメタルが音楽から政治性を排し自ら娯楽へ堕したように、本作の象徴ともいえる軍隊を先導するギタリストの存在は、この映画を分析させることを拒み、客に「バカな映画最高!」とツイートさせ思考停止を促す、一種のモルヒネとして観客を刺激し続けていました。
4.シリアル・ママ(1994・米)今年からようやく見始めた
ジョン・ウォーターズ作品。史上最低映画として名高い
「ピンク・フラミンゴ」を最初に見て、その後もいくつか見ましたが世間でもヒットを飛ばした「シリアル・ママ」を挙げたいと思います。
本作はある実在したシリアル・キラー(凶悪な殺人者)を題材にしたもの……とオープニングで紹介されますが、ウソです。ひどい。一見平穏な奥さんが、実はキレやすく次々と人を殺すという荒唐無稽なストーリーですが、決してサスペンスではありません。上映開始してすぐ観客は犯人を知りますし。それではどんなタイプの映画に属するかというと、悪質なコメディってことになるんじゃないかな。ここから先は君の目でたしかめてくれ。
シリアル・ママが街をパニックに陥れる、という平凡な脚本に終わらず、周囲の人間も段々と悪ノリになっていくところがこの映画最大のユーモア。シリアル・ママによる一大事件に大勢の人間が興奮し、法廷でのセクシャリティな取引、猥談、家族によるシリアル・ママのグッズ販売、裁判ショーにうつつを抜かす大衆、そして最悪の結末と、人々の道徳観念が堕ちていく……なぜこんな展開を見て喜んでいるのか、私は。
5.ザ・ブロブ(1988・米)宇宙からやってきたスライムが人間を食べて成長し、巨大化するっつーゲテモノホラー。観賞注意。そんなものを紹介するとは何と趣味の悪い輩か、と思われそうですが、その汚名を晴らすべく相応の理由を説明せねばならんと思っとるところです。
本作は1950年代に
スティーヴ・マックィーンが主演した
「マックイーンの絶対の危機」のリメイク。ぜひ元ネタを見てからこちらを見ることをオススメします。というのも、古典的ホラーよろしく、マックイーン作品で焦らしながら見せてきたストーリーを、本作ではわずか10分で消化。つまり、スライムの存在を町の人が信じてくれない、をずっと通してきた原作の脚本を無視し、本作でははじめから町の人々の知る所となります。あれ、じゃあこの先は好き勝手やるのか、というとそうではなく、原作の設定を根底から覆す展開が待っている……そうした挑戦的な脚本に限らず、パニック作品に重要な要素であるテンポ、グロさ、突き抜け感ともに感度の高い作品になってると思います。ちょい役で
ジャック・ナンスも。
明日あたりに本とアルバムもいければいーなと思っています!
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