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書籍「近田春夫の考えるヒット」



近田春夫の考えるヒット
著者:近田春夫
文藝春秋
1997年
387ページ


読みやすさ
(文章)     ★★★★★
(構成)     ★★★★★
読みごたえ    ★★★★★
初心者にも安心  ★★★☆☆
マニアック    ★★★★☆
オリジナリティ  ★★★★★

オススメ度    ★★★★★

1997年から週刊文春で連載している「歌謡曲コラム」といった趣きのもので、この第一弾は97年の約1年間分をまとめたもの。対談も含めて400ページ近くあるんですが口語調で取っ付きやすい書き方をしているせいか早いペースで読めます。フツーの本だと通勤の往復でせいぜい130ページが関の山な私が、同じ時間使って80ページ以上。4日で全部読めちゃいました。

構成は当時のヒット曲を2曲ずつ取り上げ、それを近田春夫が評論していくというシンプルなもの。中身を理解していくにはやっぱり97年のJポップを知らなきゃならんのですが、当時小学~中学生くらいの自分はJポップのCDを買ったことはなかったしものすごく気に入った曲があったわけでもありません。しかし、当時はJポップのCDが大変売れていて、シングルでダブルミリオンとかが出ていたもんでした。テレビでも頻繁に音楽番組をやっていたし、カラオケでも歌われていたんで自然と覚えているんです。この本に掲載された曲の7割以上は知っていたんじゃないかと思います。

では、どんな視点から評論を展開しているのか…というのはその日ごとにコロコロと変わるので一概には言えません。例えばMr. ChildrenEverything(It’s you)という曲を取り上げている回なんて、バンドのフロントマンである桜井和寿が不倫疑惑でマスコミ各紙に出したFaxの文面について説教し続けて終わっています(しかしこれがなかなかいいことを言ってるような気がする…)

今のは極端な例でしたが、これに限らず音楽面以外の話がちょいちょい出るんです。有名なミュージシャンやアイドルならばテレビ出演のイメージから、ジャケットの表情から、そしてレーベルの持つ性質からなどなど…。

では肝心の音楽面からの語りはどうかというと、編曲やプロデュースにはやはりうるさい。逆にほとんど取り上げないのが楽器のテクニック。B’zの項目でギタリストの松本孝弘を高く評価していますが、「世界レベルで良い音(フレーズ等を含む)の一言だけ…実際その後世界的な賞をもらうことになります(グラミーの何かでしたっけ)

歌謡曲の分析は、歌詞の内部にも切り込みます。ここが洋楽に対するコラムと最も違うところではないでしょうか。和製ポップス/ロックは「基本的に輸入された表現の方法」であり「その和洋折衷の解釈」をどのようにしたかが大事とのことで、これを前提とするならば歌詞の分析は避けられないようです。その一例として、和製ヒップホップがポピュラーになるためにはどうあるべきか、という話の中で、ヒップホップの母国のストレートな歌詞をそのまま取り入れるべきでなく、「つまらないものですが」という感覚で生きる日本文化に準じた歌詞にしてはどうだろうかと提案しており、「取り込む必要のないもの」の存在が示されています。洋楽を変換する(つまりパクる)行為そのものが面白くもあり、それでいて一筋縄でいかないということなんですかね。

ただ、この「洋楽」のオリジナルの解釈というのがまた厄介な問題で、いわゆる確信犯と呼ばれるような知的方法論がキザすぎて敬遠される場合もありますよね。そうした歌謡曲の持つ「意識」「無意識」にも話は及びます。そして、歌謡曲の未来について語る対談の箇所、これがまた現在にすり合わせると結構当たっているんです。終盤のこの対談だけ読むのもありかもしれません。

この本を読んで、じゃあ久しぶりにあの時のJポップを…という気分になるかというとあんましなりませんが、読み物としては非常に面白いと思います。普段自分が読むようなロックのコラムより断然楽しい。では、この手の評論を海外産ロックに持ち込めないのか? というと難しいのかもしれません。先に書いた歌詞のことも含め、そのお国の文化と絡めるのは、国内のものでないと体感レベルではいかんともしがたいってのがあるので…それに文章そのもののタッチもクリエイターならではの独特なものですし。さすがにこの解釈は大袈裟でしょう、というのもありましたが、いろいろ試みながらのコラム執筆だったと思うので、ま、多少はね? Jポップ批評の本てたくさん見かけますがどれも立ち読みすらしたことないので、比べるくらいのつもりで目を通してみるか…それにこのシリーズも随分先まであるんです。

ちなみに連載第一回より

「私は今日の日本の歌謡曲だの、Jポップだのについてまったくくわしくない。プロの音楽家の私ですらそうなのだ。だから読者諸君!! なーんも最近の音楽知らなくても安心してね」

とのことだそうです。安心してお手にとってみてください。



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