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書籍  「ポピュラー音楽の世紀」 中村とうよう

JUGEMテーマ:音楽

 「ポピュラー音楽の世紀」中村とうよう

岩波書店
初版:1999年
ページ数:230
価格:税抜700円

目次
1.矛盾を抱えて出発したアメリカの音楽
2.奇妙に屈折した大衆音楽
3.最初の世界音楽がカリブで生まれる
4.ラテン・アメリカ音楽の形成
5.スリランカ、インドネシア、ハワイの音楽
6.歌における虚構と真実
7.黒人音楽が達成した大変革
8.世界ポピュラー音楽の黄金期
9.戦後ラテン・アメリカ音楽の展開
10.50~60年代アメリカ音楽の大噴火
11.ロック以後の世界音楽の模索
12.波の彼方のポストモダン


読みやすさ
(文章)      ★★★★★
(構成)      ★★★★☆
読みごたえ   ★★★☆☆
初心者にも安心★★★★★
マニアック    ★★★★☆
オリジナリティ ★★★★★

オススメ度:  ★★★★★


 
普段こちらで取り上げているようなロック本とは趣向が違いますが、多様な音楽の要素によって組織されてきたロックを掘り下げる上でも触れておきたい、世界中におけるポピュラー音楽とそれらの結びつきについての考えが書かれています。

著者はニュー・ミュージック・マガジンでお馴染みの中村とうよう氏。岩波文庫の小さな本なので、本人もあとがきで書いていたと思いますが、色々な知識が吸収できる、というより、ポピュラー音楽全体を史観したような具合で、著者独自の見解も数多くあります。その辺りが議論が分かれるところだと思いますが、むしろそうした議論の活発化を促す目的もありそうな本になっています。

ここでは「ポピュラー音楽」を、売ることを目的とした音楽、と定義して始まります。「売る」といってもレコードやCDのように、目に見えるソフトとして売ることだけに留まらず、ロックでよく使うような言葉でいえばライヴもそうだし、民俗音楽的な視野でいえば、市井で演奏される、芸能的な音楽もやはりそう。最近ではデータをダウンロードすることでも売り買いされている音楽ですが、やはりこれもレコード/CDソフト時代を越えた、新しいポピュラー音楽構造の在り方、といったところなんでしょうか。

僕が読んだ限りでは、著者は「中心と周縁」の考え方を軸に話を進めているようなところが見受けられます。「中心と周縁」とは、社会学系の考え方で、例えばこのポピュラー音楽の産業構造は、レコードで最も多くの利益を上げ続けているアメリカ、更に西欧、日本といった国々を中心とし、それ以外を周縁と構造化し、その組織の実体化を測るというもの…
といっても、アメリカ産のポピュラー音楽を礼讃しているわけではなく、むしろ、これまで多くのポピュラー音楽に関する本が、まるでアメリカからポピュラー音楽がスタートし最も発展してきたかのように書かれているものばかりであることにとても批判的な立場。つまり、世界中の音楽構造を捉える場合で際も、西欧中心主義的な考え方で解釈されてばかりだという…。


自分が読んでいてそうだったのですが、普段ロックの音楽性とは云々、と紋切り型な考えとは、逆説的な解釈ばかりが目立つように見えるかもしれません。例えば、アメリカの音楽産業に対する批判では、個性だの感情表現だのといったケチな武器をふりかざし、PAを通した大袈裟なサウンドにすることで無理やり聴衆を圧倒するような方法は、アメリカ音楽の不幸な構造であり、その最もたる悪い例がロック・コンサートである…と。 ここで勘違いしていけないのは、これはロック音楽すべてに対する批判でもなんでもないということ。音楽の作り手と聴き手の間に介在する者の在り方が問題なのだ、ということ…。

上記の目次に書いたように、色々な国のポピュラー音楽が具体例も挙げつつ紹介されていて、当時の政治的背景とともに描かれていて、僕のような初心者にはとても面白い内容に思えました。


それでは、現代の、このダイナミックに世界中で氾濫している音楽をどのように捉えているのか?それは最後の章に書かれているのですが、そこには


「大衆音楽における”虚”と”実”の何重もの次元でのひっくり返しは、まさにポストモダン現象の典型だろう。二十世紀のポピュラー音楽を支えてきた構造、とくに業界の支配構造が根底から崩壊し、メインストリームとサブカルチャーの区別もあいまいになり、それと同時にあらゆる価値の基準がひっくり返る…」


とあります。
自分の場合も、古いロックの体系を知れば知るほど、現代にはないメインストリームの存在をいやというほど思い知らされているのですが、その疑問への一つの回答ともいえそうな気がします。

具体例としてマイケル・ジャクソン「スリラー」のヴィデオ・クリップが紹介されていたと思うのですが、このあまりに有名なヴィデオ・クリップには、特典としてメイキング映像が登場します。以前なら、こうしたヴィデオのメイキング映像など晒してはならないもので、ヴィデオそのものが持つ神々しさで、観る者を虜にするのが産業界のやり方でした。しかし、このスリラーでは、そうした「虚構」を聴衆の前に堂々と晒しています。もはや以前のようにスターが神格化された時代は終わり、聴衆はスターに対する虚実を理解したうえで、互いの距離を取り合っているということなのでしょうか…。しかし、これは音楽に限らずですが、こうした互いのグレーゾーンである「虚実」を更に虚構化しようと、企業はしたたかな広告戦略に打って出ている印象があります。こうして価値基準が、大波となって押し寄せている現在の情報過多の中で何重にもひっくり返されている…そんな風に思います。


…おや、いつの間にか自分の感想ばかり書いてしまいましたが(爆) ポピュラー音楽を知る、というより、ポピュラー音楽に対する考え方が描かれているようなこの本。ロックを物理的、かつ思索的(歌詞が含む哲学とは別に、音楽性そのものを掘り下げるという哲学)の両面で捉えるヒントが、ここから得られるのではないでしょうか。



…で、最後にそれとはまったく関係ないですが…



某店で買い物したときに、早くもビートルズ・リマスター騒ぎのチラシが封入されていました。



よく見ると、わーお、モノ盤、ステレオ盤両方解禁なんですね。しかもDVD付とな?
これを読む限りだと、一枚にステレオ/モノラル両方が収録されているわけではなさそうですね。バラ売りはステレオのみ、モノはボックスセットして売ります、ということなんでしょうか?しかもモノの方にはDVDがつかないような…なんだかんだで1年間、一万円分の音楽ギフト券を使うのを渋っていたのですが、ついに使うときがくるのかしら…
これでもう現状のCD価値は暴落でしょうか?買いなおし決定の方は、CDを早めに処分された方がいいかもしれないですね…。



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