「反逆から様式へ。」ーイギリス・ポップ芸術論ー
著者:ジョージ・メリー
訳者:三井徹
音楽之友社
初版:1973年(現在は絶版)
ページ数:433
価格:当時1000円
目次
序章 イギリスのポップ文化とは?その定義を試みる
第一章 イギリスのポップ音楽
第二章 美術・ファッション
第三章 映画・TV・ラジオ・演劇
第四章 言語・文学・ジャーナリズム
終章 次に打つべき手のために
読みやすさ
(文章): ★★★★★
(構成): ★★★★★
読みごたえ: ★★★★★
初心者にも安心:★★★☆☆
マニアック: ★★★☆☆
オリジナリティ: ★★★★★
オススメ度: ★★★★★
再版されたことがあるのかどうか、手元のものはオリジナル(爆) つまり初版です。日本で発売されたのが1973年…もう36年も前の本ですか…
内容としては、やや学術的ではありますが、良心的な批評文といったところで、読み物としては結構面白いと思いました。訳文がとても読みやすいです。
著者のジョージ・メリーはイギリス人。50~60年代前半にジャズ・ボーカリストとして活動していましたが、ビートルズらの台頭と時を同じくしてフリー・ライターに転身。この本では、70年頃までに彼がイギリスにおける「ポップ」をあらゆる角度から批評してきたものについて再度検討し、ポップの変遷や評価といったことを冷徹な視点で読み取っています。
ここでは第一章のイギリスのポップ音楽について少し…
本のタイトルのように、ポップのスタートは「反逆」から…アメリカでは
ビル・ヘイリー&コメッツや
エルビス・プレスリーの姿が思い浮かびますが、イギリスのポップのスタートは
トミー・スティールから始まると…そこからトラッドやスウィンギン・ロンドンの前身となる動きなど色々あるのですが、決定的なのはやは
りビートルズ、そして
ストーンズの登場というわけなのですが…
全体的にいって、著者はポップ音楽にはやや否定的な論調だと思います。しかし、それはポップ音楽そのものがダメというわけではなく、むしろ「本物の」ポップは素晴らしいものばかりなのだけど、それを表面的に踏襲した二番煎じのものが登場したり、こうしたスタイルの模倣が市場に出る価値がある、とされてしまうと、ポップはいとも簡単に形骸化されてしまうのではないか、ということのようです。これこそ、タイトルが示すとおり
「反逆から様式へ」という意味なのだと思います(ちなみにこの言葉は、エルビス・プレスリーに関する著書の中の一節だそうです)。一瞬の閃きとともに、それが流行化することで崩壊する、そうした繰り返しがポップなのでは…
著者は、ポップ音楽には目を引くようなミュージシャンがいるにはいるが、その率は決して高くないと言及しますが、ポップ・スターには「カリスマ」が宿っていることを認めます(これはカリスマとしか形容できなかった、と本人の弁も付け加えておきます)。それはビートルズの4人の性質のバランスであり、ストーンズの
ミック・ジャガーの神がかり的なワルっぽさ… ただ、著者は、あのマージーブームのとき、そして、サイケデリック全盛期でさえも、ほとんどが取るに足らないものばかりだった、という指摘も忘れません。それこそあの数え切れないくらいに生産されたロックバンドの挑戦的なレコードは、ポップ文化の周辺に位置する浅いものでしかない、と… カリスマ性に長けていると評したストーンズですら、胡散臭いアルバムに終始した言うほど…
全編を読むとかなり厳しい意見ばかりなのですが、僕個人としては、黄金期と言われる60年代のイギリスも、客観的に取捨選択すれば、やはり彼と同じ意見に辿り着くのではないかな、と思います。ただ、ロックアルバムの恐ろしいところは、そうした胡散臭さが回りまわって魅力的に映ってしまったりとか、時代を経てしまえばそんな捉え方もされてしまうところですね。そんなわけでレコードの中身の評価というのは一概には言えないにしろ、究極的には僕は同意見のものがほとんどでしたし、それも著者はリアルタイムで、まるで何十年も経た今から客観的に書いているかのような冷静な評論をしているわけで、頭が下がるものがあります。
この中で彼が特筆して賞賛していたバンドを一部紹介すると、先の二つのバンドと、
キンクス、プリティ・シングス、ジョージー・フェイム、ムーヴなどの名前がありました。
この評論が書かれたのが69年頃ということで、まだビートルズは解散しておらず、ストーンズでは
ブライアン・ジョーンズがまだ生きていた頃。「ポップ」という形容詞が個人的にはしっくりくる70年代のグラム・ロックにはまだ入っていない時代でしたが、このときは著者が果たしてどんなことを書いたのか?気になるところです。 しかしそれを暗喩するかのように、ストーンズ
「ジャンピング・ジャック・フラッシュ」の登場で、ポップは原点に戻ろうとする動きを繰り返していくのではないか、とも書いていましたが、これはグラム・ロックにまさにピタリ。
そんなわけで、ロック音楽華やかな頃と時を同じくして書かれた評論というだけでも、そそるものがあります。面白い本だと思います。
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