日本レコード文化史
著者:倉田喜弘
岩波現代文庫
初版:2006年
ページ数:318
価格:1100円+税
目次
1.近代を告げる音
2.国産化の道
3.視界ゼロの時代
4.対立と抗争
5.音の大衆化
6.破局への道
7.音の追求
読みやすさ
(文章): ★★★★★
(構成): ★★★★★
読みごたえ: ★★★★★
初心者にも安心:★★★★★
マニアック: ★★★★★
オリジナリティ: ★★★★★
オススメ度: ★★★★★
「日本レコード文化史」…もはやロックの本ではないんですが、一度だけポール・マッカートニーの名前なら出てきます(爆) しかも僕はLPレコードの文化史かな、と思って買ったのですが、時代でいうと明治~戦前がほとんど(爆) つまり蓄音機やSPといったところについて書かれた本とでもいいましょうか。
しかしさすが岩波文庫から出されるだけあるというか、濃密でありながら分かりやすく偏らない表現で、すごく読みやすい本です。音楽ソフトが商売となり、レコードが全国に普及することにより国民生活にどのような影響与え、また、政治社会をどのように反映してきたか…そして何よりも、レコードの普及によって皆が「音楽」について真剣に考え始めたこと…読んで想像するだけでドラマチック。感動します。
レコードの普及によって大きく変化したことのまず一つ目が、著作権の在り方について。明治~大正の頃から、数社のレコード会社により決められた値段でレコードを販売していたわけですが、正規のルートで通していないコピー盤が出回ってしまいます。既にリプロ盤の悩ましい問題は当初から起こっていたんですね。
しかし、この頃の日本の法律では著作権の概念がなかったため、裁判ですぐに販売差し止め、とはいかず、レコード会社側もかなり苦労したようです。最終的には著作権の項目が明記されるわけですが…
もう一つが「流行り唄論争」に代表されるような「正しい音楽」を巡る論戦。今でこそ数々のアーティストが売り上げを競う土壌が日本にもありますが、戦前は情報が単一的にしか入手できなかった時代。歌手が実力で売るというより、古くは歌舞伎役者、昭和ならば銀幕スターが吹き込んだレコードが爆発的に売れ、人々が口ずさむようになれば「流行り唄」としてもてはやされたらしい。論客の中にはこうした状況をよしとしない人も多く、新聞紙上などで日本の音楽の在り方が真剣に議論されていたようです。そうした軋轢の中から、淡谷のり子などの進歩的な歌手が登場する気運が生まれてきたそうです。音楽に対する向上心が芽生えたことが伺えるエピソードです。
第二次世界大戦中の「非常時」といわれたあの時代には、検閲が厳しくなり、ほんの僅かでも「風俗を乱す」と判断されたものは販売されず、最終的には、政府が国民を高揚させる曲を募集し、選ばれたものが販売されるという、政府公認レコードばかりが日本中に出回るようになったみたいです。しかし、ABCDライン(懐)などにより外交的に孤立した結果、レコードの材料が不足し、生産数は一気に落ち込んだようです。
戦後の様子については駆け足で書かれていますが、ここでまたテープレコーダーやレンタルサービスらとの著作権に関する問題が浮上。また、アーティストが持つ著作保護権の期間が日本は20年と短かったため、先にあげたポール・マッカートニーや、指揮者のカラヤンから公式に非難されるという事態も。そういえば明らかに非公式なビートルズのCDって今でもよく見かけますよね。ジャスラックのシールが貼られたアレ。 これは法律が改正され最終的には50年に伸ばされます。
またこの本の便利なところは、最後に詳細なレコードの年表が付されていること。レコード会社の変遷やオーディオ機材の進歩など、レコードにまつわる変化が分かりやすく書かれています。
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