「実験音楽ーケージとその後ー」
水声社
著者:マイケル・ナイマン
訳:椎名亮輔
初版:1992年
ページ数:326
価格:税抜3000円
読みやすさ
(文章) ★★★☆☆
(構成) ★★★★★
読みごたえ ★★★★★
初心者にも安心 ★★★☆☆
マニアック ★★★★★
オリジナリティ ★★★★★
オススメ度: ★★★★☆
今までのロック関連の書籍とはやや遠い内容のものとなりますが、実験音楽に関する書籍となります。著者のマイケル・ナイマンも、そうしたミュージシャンの一人。
ジョン・ケージ「4分33秒」という曲をご存知の方も多いのではないでしょうか?4分33秒の間、ピアノの前でじっと座り、何も音を出さないで終えるという曲…この本では、実験音楽の中でも極端なアプローチとなるこの「4分33秒」からスタートし、実験音楽の定義へと向かう道程を描いています。
この4分33秒の例を見ると、まるで音楽経験のないアーティストが突飛に思いついたことをした結果のように思われるかもしれませんが、こうした実験音楽周辺のミュージシャンの多くが、クラシック出身の優秀なインテリ・ミュージシャンであるようです。そんな彼らが目指すものとは、クラシックに内在する理論の音楽を捨て、「音楽」ではなく「音」そのものを抽出するということ…
ただ、このことはたやすくいかないもので、哲学的な思考でもって考えていかないといけない。例えば、ピアノの一つの鍵盤の音を出すのでも、楽譜に示されている音を出せばいいかといえば、それは完全ではない。鍵盤を押した直後、ピアノから離れていく音というのは、もはや演奏者にすらコントロールできないものとなってしまう。そして、聴衆が聴いている音というのは、実はこのコントロール外となってしまった音なのである。演奏者と楽譜(楽譜そのものでなくても、演奏者に与えられたテーマ)と聴衆…演奏になくてはならない三つが、実は奇妙に屈折しているのではないか…
そこで、そうした離れていく音を抽出していく。それも実に色々な方法で…
中には生まれたばかりの電気処理技術によって、残響を増幅する者がいたり、なるべく色々な残響を出すために、音楽的に素人な人たちに演奏させ、それも一つ一つの音の間に数分もの時間を空けさせたり…
この本では、50年代から70年代にかけて、実験音楽がどのように変遷していったかを描いています。地域としては大別してアメリカとヨーロッパ。ただ、日本人のミュージシャンの名前をよく出てきます。
こうした音楽は、本来ならばマーケットとは無関係なところで育まれなければ(ロックの幻想がそうであったように…)のですが、こうした音楽もアバンギャルドやノイズの一環として、マーケットとは切っても切れない関係となりました。 もちろん、ロックの中にもこうした実験音楽を参考に作り出されたものもあります。しかし両者の違いは、ロックにおいては「フリーキー」だったり「サイケ」だったりと、音そのものに色づけがなされます。それは、出ている音が同じでも、演奏者が違うだけでそうした相違が生まれるのかもしれません。それは市場とロックとの関係性を示してもいますし、実験音楽が市場を嫌うのは、そうした意味合いがあるのではないか…と思いました…。
まー学者さんみたいな人が書いた本なので、結構読むのが難しく、時間がかかります。演奏の描写は細かくて正確なのですが、実際映像で見ないことには…という場面にしばしば出会うかと思います。
にほんブログ村
バナーをクリックいただくと管理人にいいことが起こるそうです(爆)
[0回]
PR